総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

年頭にあたって

明けましておめでとうございます。
2021年の幕開けは、新型コロナウイルス第三波に重なって、静けさとともに訪れました。例年であれば皆で集まって年頭ミーティングを開催するところですが、今年はこのような状況下、このブログ上で現役諸君へのメッセージを共有することにしたいと思います。

<目次>
 1.2021年 チーム目標の再確認
 2.今季年間計画
 3.練習プラン:自分で自分をコーチしよう
 4.代表メンバー選考の透明化
 5.「時間」には厳しくいこう
 6.おわりに

1.2021年 チーム目標の再確認

2020年はコロナ影響に大きく振り回された一年でしたが、そんな中で当部は、自転車競技への情熱を絶やさず、創意工夫をしながら2021年へつながる走りが出来たものと思います。今季はさらなる進化を図り、それを戦績という目に見える形で残していきましょう。
改めてですが、12月の納会で石井主将から宣言のあった今季チーム目標を再掲します。

①インカレトラック団体種目での入賞(チームパーシュート、チームスプリント)
②インカレロードでの入賞者輩出
③全日本学生チームTTでの入賞
早慶戦での勝利

年末年始の個人面談を通じ、全員の個人目標や強化プランが、上記目標に沿ったものでもあることを確認しました。今後全員が、それぞれの長所をさらに伸ばし、また苦手を克服して、これらの目標を一丸となって実現していきましょう。

2.今季年間計画

現時点で、JCFや学連のレースカレンダーはまだ出て来ていません。現在のコロナ第三波がいつ頃収束するのか等にもよりますが、今のところは、「コロナ前に想定していた2020年当初のカレンダー」をもう一度なぞるというのが現実的な考え方でしょう。
昨年の今ごろ、諸君と共有した年間スケジュールイメージ(ロード/トラックの別)を、改めて以下に貼っておきます。

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↑2020年当初スケジュール(ロード)
※拡大して見てください

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↑2020年当初スケジュール(トラック)
※拡大して見てください

これを前提とすると、学連レースを軸に考えた場合に、短距離と中長距離のそれぞれで次の通り3つのピークを作ることになるでしょう。

<短距離>
・5月上旬(東日本学生トラック)
・6月下旬~7月上旬(全日本学生トラック、国際トラック)
・8月下旬(インカレトラック)

<中長距離>
・4月下旬~5月上旬(全日本学生ロード、東日本学生トラック)
・6月上旬~下旬(全日本学生TTT/ITT、全日本ロードU23
・8月下旬(インカレトラック/ロード)
(※上記には秋見込の早慶戦は含んでいませんが、年間目標に照らすと4つめのピークと言えます)

これらを念頭に置いた上で、上記に貼ったような週単位での年間スケジュール、ピークの波の作り方(ピリオダイゼーション)を考えていきましょう。年間計画については 一年前にもブログで書いた ことがあるので、適宜参照してみてください。
チーム全体の計画については主将・副将やロード/トラック各班長など幹部諸君で、また個人個人もそれぞれに、検討・議論してみてください。

3.練習プラン:自分で自分をコーチしよう

年間スケジュールのイメージが出来たら、月単位、週単位、日単位まで練習プランが細分化・具体化されていくことになるでしょう。
面談を通じて、日々の練習メニューについてやや煮詰まっている選手も散見されました。しかし、自転車競技の練習メニューは主に次の4つの要素の組み合わせで、無限のバリエーションがあります。

①練習強度(パワー/ワット、心拍数、主観強度など)
②ワークアウト時間(7秒、15秒、30秒、1分、3分、5分、10分、20分・・・)
③インターバル時間(ワークアウト:インターバル=1:1を基本に、短時間高強度はワーク<インタバ、タバタ的なワーク>インタバ、など様々)
④反復回数・セット数

自転車競技の場合はこれらに加えて、ギア・回転数・距離・平地/登り、などの要素も加わって、かなり多角的・立体的にメニューが考案出来るでしょう。
これらについて、次のターゲットレースに必要な能力、今の自分に伸ばすべき/補うべき領域、今日の練習を振り返って明日やるべきもの、といった観点で組み合わせていきます。

こうしたメニュー作りは、最初はZwiftのメニューやパワートレーニングの解説本などから選ぶのもいいでしょうし、少々お金がかかりますがプロコーチにメニューをもらう(買う)のでも良いでしょう。ただし、
「今日の自分を真に理解し、明日やるべきことを判断出来るのは、究極的には自分しかいない」
という事実は、きちんと認識しておいて欲しいと思います。他人の作ったメニューはあくまで参考材料であって、金科玉条や必勝マニュアルではありません。
残念ながら当部は、合宿所でまとまった生活と練習をしているわけではないし、そこに専属の監督・コーチが常駐しているわけでもありません。そうした環境下で、自分を成長させる最短コースは自分で引く必要があるし、それが最適です。練習日誌を書きましょうと言っている最大の理由もここにあります。

そうは言ってもすぐには・・・というのもあるでしょうから、以下に新入部員スタートアップガイドの末尾に付けている推奨図書リストをアップデートしたものを貼っておきます。

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推奨図書の例 (1)

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推奨図書の例 (2)

これらは主に1年目に読む想定のもので、各領域とももっと高度な参考文献・図書がありますが、それらは一旦割愛しています。積極的にこれらの(特に自転車に限らずスポーツ科学全般の)知識を吸収し、「自分で自分をコーチ出来る」ようになっていきましょう。

僕自身も、諸君一人ひとりの日々のメニューを全て提供してあげることは難しいですが、各自で考えたメニュー/プランについてのアドバイスにはいつでも乗りますので、「こんなんでどうでしょう」的な連絡・相談は気軽にしてもらえればと思います。

4.代表メンバー選考の透明化

皆の努力のおかげで、当部の総合的戦力は過去になく充実したものになって来ています。インカレをはじめとする各種団体種目やチーム代表形式の大会において、これまでは「不足気味な戦力をいかに配分して得点最大化を図るか」が主たる戦略であったものが、今季以降は「一定以上の水準で切磋琢磨するメンバーからいかに選抜するか」が重要となって来るでしょう。

個人面談時に一部メンバーからも意見をもらいましたが、このメンバー選考を今まで以上に丁寧に、公平に、偶然や間違いのないように、行っていく必要があります。
従来であれば普段の練習の中で自ずと明白になっていたものが、今後は予断を許さないような僅差で部内競争が繰り広げられる。これはとても嬉しいことで、我が部が間違いなく一段上のレベルにステップアップしたことを表しています。

チームパーシュートなら持ちタイムがこれ以上とか、チームロードならFTPがいくら以上とか、インカレロードならそれ以前のどの大会での戦績でとか、そういった具体的基準はこれから考えます。
また単なるタイムなど定量数値だけで決まるものでもなく沢山の要素が絡むので、選考方針については諸君とも相談しながら熟慮するつもりです。
いずれにせよ、皆の間で一点の曇りもない納得感のあるメンバー選考を行い、代表選手を全員が心から応援し試合へ送り出せるようなチームにしたいと思っています。

そのためには、いかに日頃から考えているか、成長期待度や戦績再現性がどのくらいなのかを理解しておきたいので、練習日誌はこまめに書き続けて欲しいと思います。日頃の練習状況の分からない部員がポッとタイムだけ出したとしても、それが偶然なのか必然なのか判断出来なければ、なかなか選びにくいからです。
加えて、普段から出来るだけ、小さなものでもいいのでレースに出場したり、川崎バンク練習でもいいのでこまめに色々なタイムを測定したりして、判断材料を増やしておいてもらえたら良いと思います。

5.「時間」には厳しくいこう

「遅刻厳禁」「Time is money.」
これらを、5つめの今季チーム目標にしたいくらいです。

個人面談を通じて、少なからぬ諸君から、練習時の遅刻の多さや試合時ののんびり具合、またそれらをお互い黙認するようなぬるま湯体質について、改善余地ありとの指摘がありました。これらは僕からはなかなか見えにくい部分なので、大変貴重な助言でした。

例えばロード練習の集合の場合、”業界の常識”としては「1回パンクしても間に合う時間で向かう」ものです。パンク1回は想定すべき事象であり、遅刻の理由になりません(さすがに2回の場合は同情が入りますが)。
そして大抵は誰もパンクしないで無事到着するので、10~15分前には皆揃っており、「じゃあ早いけど行こうか」となる。それが自律している大人のチームです。
「ぎりぎりまで寝ていて、時間きっかりに到着すべく踏み倒す」というのでは、身体の起きていない状態で汚いペダリングをすることになるし、その後の本練習では密度が薄くなるしで、損しかありません。そんな非効率な練習をしている余裕は、チャレンジャーたる当校には全くありません。

同様に、川崎バンクを「14時~17時」で借りているのであれば、14時きっかりに(もちろん競輪選手が上がっているのは確認した上で)周回練習に全員で入る。
そこをだらだら準備して10分15分遅れるようでは、やがて「慶應さんには貸さなくてもいいか、あまりやる気なさそうだし」ということになるでしょう。競輪場を無償でこれだけ利用出来ることの貴重さを、もっと強く認識すべきです。

社会に出た時にまず大切なことは、これは現代でもなお変わらないのですが、「挨拶」と「時間・期限を守る」の2つです。「仕事が出来るかどうか」は、数か月~数年経ってみて判断しようともなりますが、上記2つは、入社当日からすぐに評価が出来ます。
実際に僕の職場でも時間にルーズな社員がいますが、そういう人には重要な仕事を決して任せません。期限までに仕事を完了出来るか信頼出来ないし、重要な会議に遅刻するかもしれないからです。冷たいようですがそれが社会というもので、「頑張って来たのですが1~2分遅れました!」と言ったところで、もう会議室のドアは閉まっているのです。

当部も同様に、遅刻など時間へのルーズさが目立つ部員は、どんなに走力が優れていたとしても、団体種目のメンバーやチーム代表には極めて選び難くなります。
チームスプリントのスタート時刻にその場に並んでくれなければ困るからです。ロード出走枠に入れておいてスタート時刻にまだトイレにいられては困るからです。
「いやあ、レースの時には遅れませんよ。」といった言葉は一切信用されません。「練習は試合のように」を実践していない、と自分で証明しているに他ならないからです。

今後の各種練習や試合などで、「時間」については部内全体でもっと厳しくいきましょう。特に主将・副将以下幹部諸君は、部全体の緊張感醸成に努め、指摘することに躊躇しないでください。当然に、幹部諸君から率先して自らを律することになるでしょう。またマネージャー陣も、試合時の選手諸君のタイムマネジメントにはサポートをお願い出来ればと思います。

6.おわりに

学校でも会社でも、年頭訓示のようなつまらないものは簡潔・明瞭にすべきだと思っているのですが、意外に長々となってしまいました。もし年始ミーティングで話していれば15~20分くらいの分量かと思うので、ご容赦ください。

新型コロナウイルスはその変異種の発生などもあり、2021年も引き続き我々の生活に影響し続けるでしょう。今後の練習や強化活動において、コロナ対応にはこれからも常に十分な対策を取り、感染しない・させないを徹底していきましょう。

ともあれ、諸君の今季に向けた熱い想い(大いに表現してくれた人も、内に秘めていた人も、色々でしたが)は、面談を通じて確かに受け止めました。2021年の慶應義塾体育会自転車競技部の活躍・飛躍を皆とともに実現していけることを、今から楽しみにしています。

(2021/1/4)