総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

雪池忌 ~年末年始個人面談まとめ~

ついこの間年が明けたと思ったらもう1月が終わってしまい、今日は2月3日。「雪池忌」(ゆきちき)とも称される、福澤諭吉先生のご命日です。僕も会社を少々抜け出して、麻布・善福寺へ墓参に訪れ、今季の当部の安全と健闘を願って来ました。

港区元麻布・善福寺の福沢諭吉先生墓所。毎年2月3日は塾関係団体により墓参準備がされる

もう年末年始の話をするには時間が経ち過ぎてしまいましたが、大学部員諸君との恒例の個人面談を今年も12月末~1月上旬の連休に実施しました。普段僕が気付いていない色々な話をそれぞれから聞けて、今回もとても有意義でしたが、その中から特に皆と共有すべきことを以下にまとめておきます。
部員諸君は期末試験もほぼ終了し、これから春季強化期間に入っていくタイミング。そこにぎりぎり滑り込み?ですが、本格シーズンに向けた参考としてください。

<目次>
 ● 今季前半のロード練習形態について
 ● 日々の練習運営について
 ● 機材管理について
 ● フィットネスレベルについて
 ● 新入部員の獲得・育成について
 ● 2023シーズンに向けて

今季前半のロード練習形態について

新4年生が就職活動に入り集合練習参加が薄くなる中、新3年+新2年での練習の人数規模・走力レベルのバラつき・質の確保に対する課題感が、やはり最も多く聞かれた声でした。4年生が本格的に戻って来る6月頃までは、創意工夫で乗り切るほかありません。

もっとも、当校の120年の歴史を振り返れば、このくらいの人数・バラつきの時代のほうが圧倒的に多かったわけで、その時々で知恵を出しながら、全員が強くなって(少なくともなろうとして)来ました。現代の我々にはパワーメーターなどの効率化・可視化ツールが備わっているので、同じ練習コースを走りながらも、個々のレベルに合わせた強度管理は昔よりずっとしやすくなっているはずです。

また、それ以前のこととして、自転車競技というスポーツには空気抵抗やギア、ひいては距離といった負荷調整要素があり、強い奴は長く引く、1枚軽いギアで心肺に負荷を掛ける、逆にヘビーギアにして後ろでSFRをしている、といったバリエーションの創出が可能です。出来るだけ周回コースの設定にして、強い班は1周多くする、などは簡単なことです。
毎回の練習において、3年生を中心に、かつ2年生もどんどん意見を出しながら、全員が適切に強くなる内容で走ってください。恐らく「全体共通部分」と「個別おかわり部分」の組合せということになるでしょう。

同時に4年生も、昨年までに得たフィットネス(循環系・筋力系)とスキル(神経系)の劣化を最小限に留めておくことで、就活明けの戻りが大きく違います。春期休暇中も、4年生でまとまってでもバラけてでも構わないので(たぶんその両方でしょう)、出来るだけ全体練習や誘い合いで、練習機会を確保して欲しいと思います。就活の忙しさや不安感はあるでしょうが、後になってきっとそうしておいて良かった、と思うはずです。

日々の練習運営について

「練習場所が前日夜にならないと分からない」という声が散見されました。さすがにそれは困るでしょう。
実力のバラつきが大きいとはいえ、チーム全体としてこの時期はどのような練習が必要で、従ってコースはどの辺が良くて、というのは1ヶ月先まで概ね決められるはず(もちろん、天候や皆のコンディションによって柔軟な変更も可です)。週末を中心とした全体練習の予定が見えていれば、その間を埋める個人練習の計画も立てやすくなり、全体として練習効率が高まります。

部運営の核となる新3年生は、山田副将・六川ロード班長のみならず、西田副務・中野マネージャーも含めて、4人の意識を合わせてチームを引っ張ってくれるでしょう。2月~3月の予定もだいぶ見えて来たと思うので、今後各合宿のDailyメニューについて(入部間もない部員や、もし参加するとしたら高校生の安全面確認の意味も含めて)僕と相談していきましょう。ちなみに合宿メニューの作り方については、以前このブログでまとめたもの がありますので、参考にしてください。

また、1回1回の練習目的、メニューや走り方の意識合わせは確実に。昨年のこの時期にも同じことを書いた気がしますが、「集合場所のコンビニや合宿施設を出る前に、1~2分で良いので全員で意識合わせをしてから走り出す」ことで、練習効果と安全性の両方が向上します。また戻って来た最後のコンビニでも、同じように今日の内容の振り返りと、次はもっとこうしようetc.の会話がされる。その繰り返しが練習の質・効率を向上させ、チームメンバー間の考え方も揃って来ることでしょう。

機材管理について

機材の扱いの雑さ。工具やモノの紛失。試合時の撤収の遅さ。といった初歩的な「しつけ」についての問題提起もいくつかありました。
現在の部員諸君は、入部した時点でかなりの質・量の機材・用品(主にトラック系)が部に備わっているので、これが普通だ(あるいはこれでもまだ不足だ)と思うかもしれませんが、ここに至るまで10年以上にわたって、少しずつ買い揃えて来たものです。
元来、実は僕は機材を部費で揃え過ぎることには反対のスタンスです。これは諸君だからということではなく、人々はあまねく、自分のカネで買ったものでなくては大切にしないからです。

それでも、競技機材のますますの高騰(そもそも日本のアマチュア機材が高級過ぎることに加え、昨今の値上がり・為替)を踏まえ、一定の支援は今後もしていきます。現在もOBOG会費からディスクホイール前後輪を1枚ずつ発注中、関税等まで入れると合計約60万円予定です。一人ひとりがこれを「自分のお金で買った」つもりで丁寧に扱って欲しいと思います。

また、1kmTT=1分20秒にも届かない部員にディスクホイールなどは本来不要です(却ってスタートが遅くなるだけ)。いたずらにケチケチしているわけではありませんが、「高級機材は安易には使えないもの」という意識を入部初年度にしっかり植え付けることが、部全体としての機材管理水準の向上につながるのではないでしょうか。
工具箱の中身も同じで、使いっ放し、個人所有と部所有の境目がない、といった子供のようなことは当部には今後起こらないと信じています。

もちろん、だからといって、せっかく配備した機材を慎重過ぎてなかなか使わないというのももったいない話。しっかりした取り扱いのもとで、積極的に、落車破損などを恐れ過ぎず、ガンガン使ってもらえたらとも思っています。

フィットネスレベルについて

会話の流れでVO2max(最大酸素摂取量)の値を聞いてみた部員も多かったと思いますが、全体として体重当り1分当り 50ml/kg/min.台の部員が多い印象でした。運動習慣のない一般学生の平均がおよそ50ml前後とされており、またクロスカントリースキーや自転車ロードのトップ選手は70~80ml台とされています。それらに鑑みると、我々の水準は正直決して高いとは言えませんが、でもその割には走れているので、まだまだ伸びしろがあるとも言えるでしょう。

面談でこの数値やLT/OBLAのワット数を聞くと皆すぐに答えてくれるので、その辺の知識は良く理解してくれていると思いました。測定後のスポーツ医学研究所のアドバイスや医学部プロジェクト協力などの影響もあるのかと思いますが、とても良いことです。VO2maxや乳酸耐性が足りていないと思う選手は、この春に是非その引き上げを図ってください。それらのゾーンの練習は非常にキツいですが!

また、「体重を増やす」と言っている部員も多く目に付きました。そのこと自体は総じて良いのですが、後はそれをきちんと「必要な筋肉」で増やすこと、それを乗車時にしっかり動員し推進力につなげられること、が大事です。言わずもがなですが、冬の間にひたすらハイカロリーを摂取して脂肪で増えたり、自転車競技に不必要な筋肉で重くなっても、それは重りでしかありません。この辺りは梨佐子栄養士によく指導してもらってください。

新入部員の獲得・育成について

現1年生(新2年生)からは、「この部は自由だ」という感想が多く聞かれました。2014年に体育会正加入を果たした際に「新しい体育会の姿を示す」ことを掲げた当部として、この「自由」の意義や良し悪しをよく考える必要があります。

「だから自己がしっかりしなければ」という自覚につながる点は良いのですが、半面、放ったらかしで成長機会を逸している可能性はないか。これは総監督の僕自身もずっと前から認識しつつ未だ出来ていない点なのですが、新人教育を本来もっとプログラマティックに整備しなければなりません。

「自分への厳しさ」は、個人競技にとって、また我々のような合宿所を持たないチームにとって、とても重要です。でも人間だから、それが分かっていながらも自分を甘やかしてしまう時もある。それに段々慣れて来てしまい、一種の「負け癖」が染み付くと、これは厄介です。「慶應が緩い」「チャリ部が緩い」のではありません。「今そこにいるキミが緩い」だけ。チームのせいにしないことです。

部がどうであれ強くなりたい奴は強くなるものですが、入部1年目はある程度明確に指示(といっても否応ない命令ではなく、合理的な導き)をして、選手として滑走路から離陸するまでは面倒を見てあげるほうが、機会損失を少なく出来るのではないかと思います。

新入部員勧誘・獲得活動については、近年SNSを中心にかなり頑張ってくれているし、今年も既に候補者とコンタクトを取ってくれている部分もあるようです。質・量とも今後の我がチームを支えてくれる新入部員諸君を迎えられるよう、今春も期待しています。
さりとて、人数集めのために「(選手なら)自由だよ、キツくないよ」「(マネなら)仕事それほどないよ」で勧誘しても、真のチームメイトには出会えません。体育会の旧弊的な負のイメージは払拭すべきですが、正しいあり方や実態を伝え、後から「お互い困る」ことのないようにして欲しいと思っています。

2023シーズンに向けて

この2月~3月は、合宿での乗り込みに加えレース出場機会も増えて来ます。本格シーズンに向けた準備・強化期を経て、3月下旬の東日本新人戦トラック、4月上旬のチャレンジロードやRCS飯山、がこの冬~春の成果を測る場となるでしょう。
このブログがえらく遅れ馳せとなった僕の言えることでは全くありませんが、「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」。ここからの2ヶ月を、毎日密度濃く過ごしていきましょう。

諸君の毎日のブログにおいて、各自向上心をもって様々考えてくれているのは心強い限りです。いずれにしても今季、人数の少ない新3年生、大学から競技を始めた選手の多い新2年生を中心とする当部にとって、その戦力維持・強化には一層のチャレンジが必要です。昨年と同じことをしていたのでは後退しかない状況に、我々はいる。その自覚を選手・マネージャーとも全員が持って、「自転車競技」を優先順位の一番に置いて活動していきましょう(もちろん自転車バカではなく、学業やそれ以外も含めた充実を図って欲しいとも思っています)。

一人ひとりにとって、自転車競技はどのような価値を持つものか。学生時代の「幹・軸・核」となり得るものなのか、それともキャンパスライフを彩る「アクセサリーの一つ」に過ぎないのか。今シーズンへの本格準備に入るこのタイミングで、改めて自身に問いかけてみてください。そして当部の部員資格として明記してある自転車競技を愛し、勝利に対する努力を惜しまない者」だけが、慶應ジャージに袖を通し、スタートラインに立ってもらいたい と考えています。

2023年のチーム目標を、再度「インカレ総合入賞」に定めたことも、今日福澤先生に報告して来ました。先生が亡くなったのは1901年、その翌年・1902年に発足した当部。初代部長は長男の福澤一太郎先生。これもご縁と言うほかないでしょう。遠い空から福澤先生に見守られているつもりで、今季目標の達成に向け、当部一丸となって本格始動です。

(2023/2/3)