総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

遅れ馳せの23年振り返りと、24年に向けて

昨年9月のインカレ総括もままならないうちに、昨年は特に会社の業務に忙殺され、あっという間に年を越し、さらにもう1月さえ終わろうとしてしまっている。

2023シーズンは、四年生が競技生活と就職活動とを春先からうまく両立してくれたこともあり、前年に続き当部史上最強と言える布陣で多くの活躍を見ることが出来た。途中までの主な戦績を抜粋すると、
・2月:明治神宮外苑クリテリウム 個人優勝(経4・西村)
・5月:東日本学生トラック 4kmIP 3位入賞(政4・佐藤岳)など計6種目で入賞
・7月:全日本学生トラック ケイリン 3位入賞(政3・山田)
・8月:インカレトラック 4kmTP 5位入賞 など計4種目で入賞
などが挙げられる。

上記に続けて(今更ながらではあるが)本稿では、9月頭に開催されたインカレロード及び総合成績について総括するとともに、秋から始動した新チームの2024年目標と課題についてまとめておくこととしたい。時期的にもはや自分のための備忘録である。

<目次>
 ● インカレ2023総括② ロード&総合
 ● 秋からの新チーム:初心に帰り再起動
 ● 2024年チーム目標の達成に向けて必要なこと

インカレ2023総括② ロード&総合

8月下旬にTIPSTAR DOME CHIBA(千葉市)にて開催されたインカレトラックについては、前回「インカレ2023総括①」としてその戦評をまとめておいた。
学校対抗の総合入賞(8位まで)を年間最大目標としていた当校にとって、トラック終了時点で総合9位(対抗得点14点)、8位との差が8点という状況は、客観的に見れば黄色信号。逆転入賞のためには、残るロードレースで10位以内に2名、あるいは15位以内に3名が入るような飛躍的戦績が求められた。

事前に想定した我々の勝ち筋はただ一つ、大前・川野・西村といういずれもロードスプリントに長けた3名を、出来るだけ脚を残した状態で、174kmの長丁場のラスト1kmの登りに送り込むこと。そのためには逃げとメイン集団との差を付け過ぎず、2分程度までに抑えることであると考えた。
大きなタイム差がついた後で、それをレース後半に埋めていく展開が学生レースでも多く見られるが(ちょっと欧州プロロードの見過ぎではないかとさえ思う)、その場合、より大きなパワーをより長時間使わせられることとなる。メイン集団から見て逃げを射程内に留めておくことは、全体の完走率を上げ他校にとっても益となるが、それはそれで良いと割り切った。前述の3名なら、比較的人数の多い集団が残っても、その上位に入ってくれるだろうと見立てた。

レース展開の全貌については、例えば以下のような専門サイトに詳報がされているので参照されたい。

逃げとメイン集団との開きは最大でも約3分で、ほぼ当校の狙いに沿うものとなった。
逃げや追走に当校メンバーが加わることはなかったが、実際には大前・川野ら自身が集団先頭でペースアップを図るなどレースメイクの一翼を担っていたようだ。一方で、全体としては日大勢が終始展開を握り、トラックに続いて圧勝の感しかなかった。

果たして当校は、川野(経4)が6位入賞、大前(医5)が17位で対抗得点を獲得し、ロード部門では団体4位という好成績を収めた。近年のロード男子では完走さえままならない状態が続いていたことに鑑みれば、33位で完走した西村(経4)まで含めて、大きく成長したと言って良いだろう。

インカレロード成績(部内資料より)

トラックとロードを合算した総合成績では、惜しくも8位(日体大)から4点差の9位に留まり、目標だった総合入賞をもぎ取ることは叶わなかった。ただし下図の通り、近年のインカレにおける対抗得点はトラック/ロードともぐんぐんと進歩している。この成長を牽引して来た23年メンバーの頑張りは高く評価したい。

インカレ総合成績とその推移(部内資料より)

秋からの新チーム:初心に帰り再起動

インカレが終わると、当校は代交代を行い、新たな現役幹部陣のもと来季に向けて新チームの挑戦が始まる。新主将・山田(政3)を中心に据え、副将・阿部(政2)と主務・平石(商2)を抜擢し、副務・西田(総3)がサポートしていく体制となった。

ここ数年、当校戦績を支えて来た四年生は、高校以前からの自転車競技経験者が比較的多く、1~2年生のうちから全国大会レベルで経験を積んで来た。一方、彼らの抜けた現在の我がチームは、トラック/ロードとも学生選手権大会に出場する権利(トラック基準タイムのクリアや、ロードの上位カテゴリーへの昇格によって得られる)を保有している部員が、下図の通り半数に満たない状況となっている。

当部戦力状況(対前年比較、単位:人)

この状況を端的に表したのが昨年の早慶戦であった。22年度大会では21年振りの勝利に湧いた伝統の一戦だが、昨季は早稲田諸君が12月初旬でもまだしっかり試合・練習を続けていたこと、またそれ以上に今年は負けられないという強い意志が彼らに感じられ、対抗得点で73対45の完敗に終わった。

スポーツ推薦制度を持たず、大学から自転車競技を始める部員の多い「草の根軍団」たる当部において、現状はある意味「通常期に戻った」と言うことも出来る。総監督の僕も、数年前まで使っていた教材を久しぶりに引っ張り出して皆に配るなど、初心に帰ってイチからチームの再育成に取り組もうと考えている。

ただしせっかく昨季、インカレ総合入賞まであと一歩に迫ったチーム力、ひいてはそれによって高くなった目線を、みすみす引き下げて良しとするつもりもない。常々僕の言うことだが、
「本来なら、現存する国内最古の自転車競技チームである当部が、国内で最も強くなければいけない。もし今そうでないなら、これまで120余年の歴史において、経験・知見を積み上げそれを実践する努力を我々が怠って来たからだ。」
新チームがその歴史をつなぎ、さらに次のステージに登っていくための第一歩は、まず上述の選手権大会へ出場可能な選手を一人でも多く揃えるべく、各自の走力・身体能力向上を図ることから始まる。

2024年チーム目標の達成に向けて必要なこと

昨年末、12月23日に実施した納会において、現役諸君から来季の目標設定について発表があった。彼らが9月以降、部内で議論を重ねて導き出した2024シーズンのチーム目標は、以下のようなものだった。

 ① インカレ総合2ケタ得点(かつロードとトラックの両方で得点)
 ② クラス2昇格・B基準獲得(全員が、という趣旨と理解)
 ③ 打倒早稲田(慶早戦/チームタイムトライアルでの勝利)

学生自転車競技選手にとって、インカレはやはり年間最大目標となる大会だが、そこでの2ケタ得点というのは既に昨季達成済みのものだ。改めてそれを(決して易しくはない)目標として設定しなければならないところに、新チームの冷静な自己分析の結果が見て取れる。総監督の僕としても、この目標設定をやみくもに否定することはせず、むしろチーム全員が背伸びをしてぎりぎり届く水準=目標として妥当なラインだと理解した。

その目標達成のために、僕からは以下のような図を示し、各自の自分への厳しさと、チームの緊張感醸成を求めた。

自立・自律したアスリートの集団とはこういうものだと考えている

自転車競技はチームスポーツだと言われつつ、チーム戦略を遂行出来るだけの個々の走力が備わっていることが大前提となる。体育会各部の部員ならどの競技であれ言わずもがなではあるが、特に自転車競技部においては一人ひとりが自身を厳しく律し、内発的に努力を重ねていく必要がある。

同時に、自分だけが強くなれば良いということではなく、チームの総合力を高めるために、部員諸君がお互いに切磋琢磨していく風土も求められる。自転車競技ひいてはスポーツに対する姿勢にバラつきが残念ながら見られる現状を、どのように高い目線で揃えていくか。山田主将はじめ幹部諸君のリーダーシップ発揮に期待するとともに、今年は僕自身も現役諸君に”お任せ”し過ぎず、多少鬱陶しがられるのを承知で皆とのコミュニケーションを多く取っていきたいと考えている。

先週末に行われた今年最初の学連レース(埼玉県川島町でのクリテリウム)では、惜しくもクラス2への昇格者を出すところに手が届かなかったが、しかしもう一歩のところまで来ているとも思われた。部員諸君の今季ますますの奮起に期待したい。

(2024/1/30)