総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

インカレ(代替大会)トラックまとめ

10月10日(土)~11日(日)の2日間、長野県松本市の美鈴湖自転車競技場において、全日本大学自転車競技大会(トラック種目)が開催されました。
前回記した通り、今年は新型コロナの影響で参加ままならない大学や選手もいることから、例年より種目・日程を縮小し、「インカレ代替大会」として実施されました。
当日は台風14号の接近が直前まで危ぶまれていましたが、運よく予報円の南寄りへ行ってくれて、土曜午前にはしっかりした雨と寒さ、また同日午後は標高1000mのバンクが濃い霧に包まれる時間帯もあったものの、大会自体は全競技が予定通り無事行われました。

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冷たい雨と霧の美鈴湖自転車競技

今回は、当校の出場した種目を中心に、この2日間の試合後ミーティングで現役諸君に話した内容を肉付け・再整理して、現時点でのチーム状況を書き残しておこうと思います。
※各種目がどういう競技かを知りたい方は、日本自転車競技連盟の競技種目紹介ページ をご参照ください。

<目次>
● 4kmチームパーシュート
ケイリン
● チームスプリント
● マディソン
● オムニアム
● レース以外のこと
● 終わりに

4kmチームパーシュート

当校結果:10位、4分34秒028(Ave. 52.55km/h)
優勝校(法政大学):4分18秒305(Ave. 55.75km/h)

当校は今季、「団体種目でのインカレ入賞」を年間目標の一つに掲げ、チームパーシュート(以下「TP」)については入賞想定タイム4分19秒を目指して夏季の練習を重ねて来ました。近年の中では最も高いレベルで4名の脚が揃っていたこともあり、この結果とタイムは正直残念な思いです。

優勝タイムも4分18秒と、昨年8月下旬に同バンクで開催されたインカレの予選トップタイム(4分11秒)から約3%遅いものとなりました。その他の主要校も軒並み2000m以降にラップタイムが2秒程度も落ちたり、4名バラバラになってしまうケースが多々あり、おそらく非常に冷たい本降りの雨(たぶん10℃程度)と、今季前半のコロナ影響によるチーム練習の不足が主な要因になったかと推測します。

そうした中で当校は、昨年のタイム(4分33秒、14位)とほぼ同等に踏みとどまったとも言えますが、メンバーの質が大きく向上していた今年は、せめて8位入賞タイム(4分26秒:京都産業大学)に届きたかったというところです。

ただし、出走したメンバーに言わせれば、「終わってみればまだ余力があった」「調子は良かったので、何故か分からない」といった事後コメントでした。これはどう解釈したら良いでしょうか。

僕が思うに、おそらくこれは、チームメンバーの経験不足によるところ大と考えます。
1年・1年・2年・3年という4名構成でしたが、彼らはいずれも高校時代は部員数が少なかったためにTPを経験しておらず(1名が県代表で走ったことがある程度)、大学に入ってからやっとまともに始めたという共通点があります。
今季は東日本学生をはじめTPを走る試合機会が消滅し、ましてや今回のような悪天候でのレース走行機会はありませんでした。
そうしたメンバーが、インカレ初日の第2組目に冷たい雨の中初めてのスタートラインに立った結果、無意識のうちに入りのペースを抑え気味にしてしまったり、先頭交代が慎重過ぎてしまった可能性は否定出来ません。
あるいは、直前の練習まで空中分解をすることもままあったので、それを回避したいとの思いが働いたのかもしれません。
そうした一つひとつは小さな守りの姿勢が、毎周のラップを目標設定より少しずつ遅いものにしていったのではないでしょうか。

「練習は試合のように、試合は練習のように」とはスポーツの世界でよく言われることですが、まさに今回は、「練習で出来ていないことは試合でも出来ない」という典型的な例だったと言えるでしょう。

しかしこれらは、このメンバーが今後試合経験を重ねる毎に、確実に解消されていくものです。幸いにもまだ来年・再来年と進化が見込まれるこのチーム、来季には改めて4分20秒切りを実現したいと思います。

参考までに、今回の当校ラップタイムと、表彰台に乗ったうちの1校のラップタイム(いずれも手元計時:公式タイムとは異なる)を載せておきます。そのチームのギアや回転数はあくまで仮定値ですが、平均時速約3km/hを埋めるために、ギア比と回転力の双方で向上が必要なことは明らかです。

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チームパーシュート ラップタイム(手動計時のため公式タイムとは異なる。上位校Aの使用ギアは仮定)

ケイリン

当校結果:予選3位敗退(2位まで1/2決勝進出)、敗者復活戦2位敗退(1位が1/2決勝進出)

当校からの代表選手(2年)が2本走りました。2戦とも展開としては申し分なく、先行する有力選手の直後にうまくポジションを取ることが出来、最終バックストレート時点ではかなり期待の膨らむ走りでした。
しかしながら、そこからその相手を捲る、あるいは並びかけることさえ出来ず、むしろ付き切れ気味でゴールに流れ込むしかありませんでした。

ハイスピードからさらに回転数を一段(5~10rpm)上げること、これはこの当校選手が前々から課題としているものでしたが、まだそこが不十分であったということでしょう。
ただし、昨年に比べるとかなり高速域でも付くことは出来るようになった(=重いギアを踏む筋力は付いて来た)ことや、踏み出しの良さは元々備えているので、残る強化テーマが改めて明らかになったと前向きに捉え、来季もうひと皮剥けて欲しいと思っています。

チームスプリント

当校結果:10位、1分05秒299
優勝校(日本体育大学):1分00秒668

前述した「団体種目での入賞」という年度目標のもう一方を担う種目でした。夏季練習の終盤までメンバー構成に悩んだり、なかなかタイムが伸びなかったりしていましたが、結果的には今年のチームでのベストタイムを更新し、チームパーシュートと同じ10位を確保して進歩を示すことが出来ました。

しかし、このタイム自体や1名1名の走りは、まだまだ満足のいくものにはなっていません。
以下に当校及び上位入賞校のラップタイム例を載せておきますが、333mバンクの半周(=約167m)で9秒前半~中盤を維持しなければ、勝負の土俵には到底立てないということです。

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チームスプリント ラップタイム(手動計時のため公式タイムとは異なる)

当校の半周を10秒弱というラップは、200mハロンに換算すれば12秒を若干切った水準でしかない。スプリント予選の200mタイムが9秒台に突入している現在、もうそんなタイムの時代ではないのです。
今回の8位入賞タイムは1分03秒2(朝日大学)、また昨年の同タイムは1分02秒9(同志社大学)でした。そこまであと2.0~2.5秒、その差を埋めるには半周ごとに0.5秒縮める必要があります。
また加えて、スタンディングスタート(最初の半周)に約1秒もの差があることも事実で、これは技術と筋力の両方を大幅に改善しなくてはならないでしょう。

ケイリンにも共通しますが、「スプリンター」という人種は一般的に「速筋の比率が高い選手」と言えます。
速筋の特性は①断面積が大きく出力が高い=重いギアが踏める、②収縮速度が高い=脚を速く回せる、の2つです。
当校はこのうち①についてはウエイトトレーニングを従前より多く採り入れたり、使用ギアを他校の情報も聞きながら上げていったりして、そこそこのレベルまで持ち上がって来たと思います。しかし②についてがまだ足りていません。

僕がいくら「まずはペダリング」「回転練習を」と言ったところで、最近の学生選手達は皆「そんなの古いですよ、みんな4倍5倍掛けてますよ」という顔をしています。
実際に、スプリントで強い選手はとんでもないギアをスローモーションのように回して、200m=9秒台を出していたりするので、どちらが正しいと一概には言えないところです。
しかし、レースに出ての結果を客観的に捉え、我々の身体能力の素地やトレーニング環境にも照らして考えれば、自転車競技の原点である「重いギアを、速く回す」の両方をバランス良く発達させることを常に意識して欲しいと思います。

マディソン

当校結果:11位(マイナス2ラップあり、得点合計マイナス35点)
優勝校(中央大学):28点

当校は今季、中距離選手2名(3年+1年)のコンビを結成して9月の全日本学生個人トラックから出場し、これが2戦目でした。
距離20km(60周)、ポイント周回計10回のレースのスタート直後に積極的に単独逃げを図り、計算通りの適切なタイミングで交代もして初回ポイントを見事トップ通過(5点獲得)しました。
ただしレースをしていたのはここまでで、その後は高速の集団走行における交代でミスが相次ぎ、じりじりと集団から離され、そのまま勝敗圏外へ。後はただひたすらメイン集団から落ちて来たチームの選手と苦しく周回を重ねるのみに終始し、得点に絡むことはありませんでした。

マディソンという種目は、単独でもポイントレースを走れる持久力とスプリント力の兼備、加えてタッチ技術や試合運びなどの高度なスキルが求められます。
当校チームは、この激しい種目に耐えられるだけのタフネス、殊に巡航速度の高さ及びその持続時間について、まだまだ練習が不足していたと言えるでしょう。
この種目を目指すとすれば、ロード選手と同様の練習量が必要であり、ちょっと器用な選手が小手先で出場できるものではありません。

スキルに関しては、大学チームの場合いずれにせよさほどマディソンの経験機会があるわけではないので、他校との差がさほどつくところでもないはずですが、当校はタッチ時に大きくロスをしてしまうシーンや、他校タッチと絡む時に必要以上に大外を回ってしまうシーンなどが散見され、技術面でも改善余地が多分にあるものと思われました。

五輪種目に学生競技も揃えていくという方向性のもと、マディソンも数年前から大学の試合に導入されたばかりですが、各校の取り組みにより年々競技レベルは向上していると感じます。
日本自転車競技の草分けたる当校としても、こうした種目には本来先陣を切るくらいのつもりで、積極的かつ真剣に臨みたい。今回の教訓を糧に、来季も是非チャレンジしたいと思います。

オムニアム

当校結果:6位入賞(得点合計92点)
優勝校(日本大学):137点

10km~24kmの形式の異なるレースを4種目、1日のうちに(今回の場合およそ1時間おきに)実施して総合得点で競う、トラック個人中距離の花形レースです。当校はここに、1年生のロードスプリンターを満を持して投入しました。

第1種目のスクラッチは、10kmを集団(26名出走)で走行し単に最終着順を競うものですが、ここを上位通過するかどうかでその後のレース運びが随分と変わって来るため、非常に重要なレースです。
当校はここを7位というまずまずのポジションで通過することが出来ました。

しかし第2種目のテンポレースでは、スクラッチで下位に甘んじた強豪校選手が積極的に仕掛けていく中でうまくレースの流れをつかむことが出来ず、最終着順勝負に切り替えざるを得ない展開でした。
さらに最終周にラップが発生したこともあって周回数を錯誤し、1周早くスプリントを開始&終了してしまい、脚を残しながらも下位に沈む結果となってしまいました。

第3種目のエリミネーションでは、中盤に集団内で大きな落車事故があり一時中断となるアクシデントがあったものの、前半後半を通じ先頭付近外側を頑張って粘る走り方で後半まで生き残りました。
ただし経験豊富な他校選手に外側を塞がれる位置となってしまい、9位でこの種目を終えました。

3種目を終えたところで合計得点51点/11位と、8位入賞以上(本人は恐らく表彰台?)を目指している当校としては危機的な状況にありました。8位選手まで13点差、せいぜいこれに追い付くかどうかというのが常識的なところです。

しかし当校選手は、第4種目のポイントレースで序盤から果敢に攻めの走りを展開し、明治・早稲田との3名逃げを形成。得点を稼いだ後にラップポイント20点も獲得して、一気に8位まで浮上しました。
その後は先頭集団へのブリッジに脚を使ったりしながらも、後半にポイントを加算し、また最終着順もおろそかにせず同点選手にそこで差をつけて、最終的に6位まで挽回してこのサバイバル・レースを終えました。

出場した選手はトラックでは主にタイムトライアル系を中心にこれまで取り組んでおり、バンチレース(大勢の集団で競走するレース)の経験は必ずしも十分ではありませんでした。
それでもこのオムニアムのゲーム性を十分理解し、頭を使って冷静に状況判断しながら走れていたと思います。テンポで残周回数を勘違いしたのも、最終局面でラップ発生を認識し、次に何が起こるかを瞬間的に計算したがゆえのことでもあるので、前向きな反省とすべきでしょう。

そして、4種目全般に見られたフィジカルの強さもさることながら、テンポレースでの失敗やエリミネーションの一時中断にも気持ちを切らさず、最終種目のポイントレースに果敢に臨み、一つでも上位へ食い込むのだという強いメンタルを維持出来たことこそ、今回最も評価される部分だったと考えています。

今回のレースでは、積極的に動き回る同志社の活きの良い1年生選手、またその挑戦を受け止めさらにその上をいく日大・朝日大の強豪選手の堂々たる走りが印象的でした。
今回一段成長したであろう当校選手が、今後のトラック系バンチレースでそれらの中に割って入り、さらに積極的に自力展開していく姿が見られるものと期待しています。

レース以外のこと

出走したレース以外の周辺部分では、マネージャーやサポートの動き方が徐々に”様になって来た”ことは収穫でした。自然と出場選手の身の回りのサポートが出来る(かといって過剰ではない)、ビデオ記録も良く撮れている、機材の積み下ろしの速度や整理整頓能力も上がって来た、といったことです。
もちろんまだまだなところも多く、働いている人間の偏りやバンチレースでの得点記録の手際などは改善の余地があるでしょう。また今回は出場選手数や種目も少なく時間的余裕がありましたが、もっと忙しい試合で同じことが出来るかどうか。マネージャー陣の経験蓄積と、「緊張感ある」サポート体制の確立を目指して欲しいと思います。

一方、本番でもなお機材関係でバタバタしているのは、本当に反省し改善しなければなりません。延長バルブがどうのこうのとか、代車・代輪の準備が遅いとか、必要工具をバンク内まで持って来ていないとかです。
今夏幾度も同じ機材を使用して練習や試合をしているのに、なぜまだ完全でないのか不思議です。一日目の朝にしても、試走が一番目のスロット(7:40~)であり20分という限られた時間であると分かっているのですから、前日までに段取り・準備出来たこともあるはずです。時間がないぞ!と監督に言われて動き出すようでは、のんびりした慶應ボーイだね、と揶揄されても仕方ありません。

自分の使う機材は東京にいるうちに完璧にしておくこと。現地では不測の事態にも対応出来るよう準備を整えておくこと。この当然の原則が徹底されているかどうかは、その選手やチームの自転車競技への取り組み姿勢を分かりやすく表すものと考えています。

終わりに

インカレ代替大会のトラック競技は、終わってみればある意味例年通りの、団体種目はどちらも10位という「慶應の定位置」に甘んじる結果となりました。9位以上に並ぶ特別選抜制度を持った強豪校に一矢報いてこそ、我々のような草の根チームの存在意義があると思っています。
その意味で、今回オムニアムで6位に食い込む部員を輩出できたことは、他の当校部員の意識を上げるためにも大きな収穫だったと考えています。

次週の17日(土)は、同大会のロード競技が群馬CSCで開催されます。こちらも距離や人数が例年より縮小されての無観客試合となりますが、それは当校にとっては追い風でもあります。本塾代表として出走する5名の選手がどのように食らいついてくれるか、今から楽しみです。

(2020/10/14)