総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

納会と個人面談 ~ 年末の締めくくり

毎年12月は、我が自転車競技部も一年を締めくくる時期になります。

当部は12月上~中旬の週末に「納会」を開催し、部全体及び各部員の年間活動総括を行います。ここには全部員の他、部長先生と指導スタッフ、及びOB/OGからも希望される方々(毎年10名程度)が出席してくださいます。
またその総括ミーティングに続けて、例年であれば先生方・OB/OGと現役諸君との懇親会も開催します。今年はコロナ影響によりこの”夜の部”は実施しませんでしたが、戦績の良かった年(学生日本一があった年など)は、それを「祝勝会」と銘打って開催したりもします。

加えて、年末年始にかけては部員一人ひとりと監督との個人面談も実施します。毎年僕の冬休みはほとんどこれだけに費やされて終わってしまいますが、日頃はどうしても幹部部員とのやり取りに偏って各部員とゆっくり時間を取って話せる機会が少ないことや、上述の納会では個々の部員に関する具体的な話は時間の制約から難しいので、こうした場を設けて部員一人ひとりのことを出来るだけ理解しようと努めています。

若手OB/OG諸君にとっては、これらのことを自身も現役時代に経験しているでしょうから、いまさら説明する必要はないかもしれませんが、一応備忘録として、この2つの年末行事について意義やポイントをメモしておきます。

納会の内容と意義

今年の納会は、12月12日(土)午後に、(コロナ影響で学校施設が使用出来なかったため)外部の貸会議室を借りて行いました。
納会においては、チーム全体についてと、個々の部員についてのそれぞれに、
①今季の目標、②今季の結果・目標達成度・分析/考察、③来季の目標
の3点をカバーする形で今シーズンを振り返ります。

チーム全体については、主将を中心とした幹部部員が代表してプレゼンテーションにまとめてくれます。また上記3点以外に、来季に向けて補強したい機材(への経済的支援)についてOB/OG会向けにお願いするパートがあったり、別添で今季の戦績・タイム一覧、全選手の月次走行距離一覧、会計報告、役割分担表、などが資料配布されます。

個々の部員も各自の今季を振り返り、1人当たりA4×2ページ程度のレポートにまとめて提出します。それを全部コピーして綴じたものを納会当日に配布してくれますが、人数が30名ほどともなると、結構な厚さのレポートがドンと机に置かれる感じです。
各自のレポート内容について、最近では一旦提出されたものを幹部部員が入念に添削してくれているからか、あるいはオンライン授業等を通じて個々のライティング能力が向上しているからか、最終的に配布される版はかなり文章水準が整っています。昔に比べると支離滅裂で目の通しづらいようなページはほとんどなくなっていて、ありがたいことです。

納会当日は、1名当り2~3分程度で要約をスピーチしてもらい、それについて指導陣を中心に短いQ&Aを行います。それでも1名5分×20名(1~3年生までとして)で1時間半以上かかり、またその前にチーム全体に関するプレゼンと質疑が20~30分あるので、間に休憩をはさむ長丁場のミーティングになります。

この納会及びそれに向けたレポート執筆を通じて、各部員の今季活動に対する考察がしっかり行われ、来季目標について時間を取って考える機会が作られます。これが納会の最大の目的・意義と言って良いでしょう。その内容は年々着実に進化していると感じています。
加えて、先生やOB/OGに向かって活動報告をするというプレゼンテーションの修行の場、また懇親会も行われる場合には、そこでの世代を超えた縦の交流、及び日頃全部員が集まる機会の少ない当部にとっては、横の交流の場としても大いに意義があるでしょう。

納会のTips

納会では現役部員からの発信情報量が非常に多いので、初見でそれらを全て咀嚼し、事細かなコメントをすることはなかなか難しく、またそこまでたっぷりした時間もありません。
要所要所を押さえるだけでも結構な集中力を必要としますので、指導スタッフは前の日に十分睡眠を取って笑、コンディションを整えて臨むことを勧めます。
その上で、納会における指導スタッフとしての主な着目点やコメントの際の留意点を列記しておきます。

  • チーム全体の戦績分析は的を射ているか。来季チーム目標の設定は適切か。
  • 各個人のレポート内容は、紙の上だけのキレイごとではないか。行動・実行され得るか。個人目標とチーム目標に整合性はあるか。
  • 各個人とのQ&Aは1~2往復しか時間的に出来ないので、具体論・詳細は後日の個人面談に譲り、大きな粒度のコメントをすること。
  • 「優等生的レポートをしても見抜かれている」「思いのほか日頃から見てくれている」といったことが部員に伝わるような、鋭くも温かい質問やコメントが理想。
  • 監督・コーチばかりでなく、必要に応じ出席OB/OGにコメントを求め、ミーティングの活性化及びOB/OGの満足度向上を図ること(例:学連担当の部員については学連理事OBに寸評してもらう、機材支援の件については事務局長に意見をもらう、等)。
  • 全体まとめのコメント時は、来季につながるような前向きなトーンとすること。現役部員は監督・コーチの言葉の端々を敏感に受け止めるものと心しておくこと。

個人面談の内容と意義

今年は12月28日~31日及び1月3日の計5日間、朝から昼過ぎまで使って計25名と、1対1のミーティングを今まさに実施している最中です。今年は大学生(1~3年生全員)に加え、高校生も数名しかいないこともあり、併せて実施しています。

話す内容は以下に貼った主に3点です。このようなAgendaを書いた紙をテーブルの上に置いて始めることで、部員も最初に安心することが出来ます。

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面談アジェンダシートの例

前述したように、これらのことは納会の場では時間的制約から話し切れないことや、日頃も各個人との会話機会が十分には取れていないこと、加えて大勢の前ではなかなか口を開いてくれないけれど1対1になるとしっかり話してくれること、といった理由で、この個人面談は(少なくとも指導者側としては)大いに役立っていると思います。

納会と違って個人面談については、事前準備をすることが可能です。仕事納めに向けて業務繁忙な時期かもしれませんが、納会の各部員のレポートに改めて目を通し、僕の場合は以下のようなExcelシートを予め作って想定質問をメモしておきます。

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面談メモシートの例(実際はもっと個別具体的な中身になる)

面談ではこれに沿って会話を進行すると、その場の思い付きや流れだけではない、比較的内容のある面談になるのではないかと思っています。
面談中はノートPCを開いて、このExcelヒアリング内容をメモするようにしていますが、これも会話を妨げるというよりは、きちんと自分の話を聞いてメモしてくれているな、という信頼感につながっているように思います。
面談後には、特に継続課題となる部分や要対応事項について赤文字にしたりして、後日振り返りやすいようにしています。

日頃おとなしそうな部員が意外なほどしっかり意見を持っていたり、部員間の人間関係が垣間見えたり、日常の”きれいな報告”だけではない様々な情景を知ることが出来たり。いかに普段見えていないものがあるか、毎年のことなのに毎年痛感させられていますし、だからこそ僕はこの1to1面談を出来る限り続けているのです。

個人面談のTips

個人面談は、これだけの人数になると事前のスケジュール調整が必要になって来ます。納会が終わったくらいの時点でこちらから日程を出して、マネージャーに全員の都合を確認し”時間割”を作ってもらっています。練習スケジュールや帰省との兼ね合いも加味しつつ、1日当り4~6名(これがこちら側の限度だと思います)、時間は1人当り45分で組んでもらっています。
30分だと、ちょっと長引いた時に次の人への影響が大きいのと、飲み物を買っているだけで5分くらい過ぎてしまうので、面談数が30名を超えない限りは(1月上旬くらいまで日数を増やしてでも)45分が良いと思います。

場所は近年ずっと、日吉のスターバックスで行っています(連日席を占拠しておりすみません)。僕が朝少し早めに行って、面談に適した(周囲のお客様の邪魔にならない、かつ我々も話しやすい)端のほうの席を確保します。これが午後スタートになると、スタバは満席で近くのミスドに変更するようなこともありました。
それぞれの部員が指定時刻に合わせて来た際に、僕のスタバカードを渡して好きな飲み物を買って来ていいよという慣習にしています。大学生にとって、スタバの飲み物は「ちょっと高いけどオシャレ」なもののようで、少し嬉しい心理状態で僕との席に座ってくれるので、面談の会話が弾むようになります。これが学校内の殺風景な教室などだったら、少し違って来るでしょう。
全員分となるとそれなりのポケットマネーにはなりますが、得られる情報の多さや部員諸君との関係深化という効用に鑑みれば、とても安い投資だと思っています。

今後の進化・発展に向けて

納会に関して、シーズンをしっかり振り返るという最低限の目的はまずまず達せられているかと思います。ただしこれをさらに発展させて、実業団チームのサポーター報告会のような、先生方・OB/OG・保護者などチームを支えてくださっている方々を集めたイベント的にしていくというアイデアもありそうです。もちろん、良い戦績を出し続けて、毎年何らかの「祝勝会」が併催されたら、なお良しです。

また、来季に向けた目標設定について、現状ではこの納会で現役諸君が検討して来た案を初めて聞き、そこから指導スタッフとの議論が始まります。
今季については、幹部諸君とのコミュニケーションが円滑で予めある程度すり合わせが出来ていたので、納会で発表された内容に何ら違和感はありませんでしたが、そうでない年もしばしばあります。
その場合は個人面談を経て年始のどこかで監督からの追加・修正メッセージを発信することになりますが、出来ればそうしないで済むほうが良いでしょう。
理想的には、事前にすり合わせが出来た上で、翌シーズン目指すところをサポーターの皆様に対し宣誓するようなしつらえとなれば、「有言実行」のとても格好良い場になるかもしれません。

個人面談に関しては、監督1名で全員と面談するのは時間的に非常に負担の大きいものであることは否めず、その観点で言えば複数のコーチングスタッフで分担して全体をカバー出来たら良いのかもしれません。
しかし一方で、監督が全員と等しく会話することで全体像を立体的につかめるというメリットもあるので、一概には言えないところです。現時点では、分担出来るコーチが不在な現実や、僕自身は特段帰省もなく家族サービスもあまり必要ない(たぶん・・・)こともあって、僕1人で対応していますが、これはこれで楽しんでやらせてもらっています。このくらいの人数規模の部だからこそ出来ること、でもありますから。

もっと言えば、現状ではこの年末年始の一度だけ個人面談を実施しているところ、可能であれば年間もう一度くらい、例えば6月末頃のシーズン前半が一段落するタイミング、あるいは9月上~中旬のインカレが終わって新体制となるタイミング、辺りでもやれたら良いと思います。実際には年末年始のようなまとまった時間が取れないので難しいのですが、オンライン活用などの工夫も含め改めて考えてみても良いかもしれません。

また本来であれば、こうした面談をする人材は、何らかカウンセリングのスキルをきちんと具備しているべきだと思います。僕は恐縮ながらそうした資格的なものは持っておらずビジネス側面で少々独学した程度に過ぎませんが、今後日本でもコーチングのスキルが進化していく中で、比較的優先度高く求められるものではないかと考えています。

納会も個人面談も、指導スタッフにとっては部員諸君のことを理解するための非常に貴重な機会です。ぜひこの年末の2つのイベントを引き続き大切にして、どちらもより有意義で充実したものにしていってもらえたらと思います。

(2020/12/31)