総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

21年振り返りと22年に向けて

2021年が間もなく終わろうとしています。
我が自転車競技部は12月中旬に全部員で今季を振り返り来季目標を立てる「納会」を済ませ、下旬から年末年始にかけて、僕と各部員との個人面談を実施している最中です。
納会で僕や先生・OB諸氏が話した、あるいは部員諸君が話してくれた内容と一部重複もありますが、ここで改めて21年シーズンの総括と、22年における当部方針について書き留めておき、年末年始の挨拶に代えたいと思います。

<目次>
 ● 2021年の戦績と評価
 ● 競技面以外での成長
 ● 2022年の目標と方針

2021年の戦績と評価

今季はJCF及び学連・神奈川県車連の主催大会だけでおよそ25レースにチームとして出場しました(これに加え実業団登録者はJBCF主催大会等、またトレーニングとしてのホビーレースが数レース加算)。コロナで大会数の激減した2020年に比べれば試合数はやや回復し、開催・運営に尽力いただいた関係各位には感謝申し上げたいと思います。

ただそれでも、学連のロードレス・カップ・シリーズ(RCS)が例年は10~12回程度あるところ、2021年は約半分の6回の開催に留まりました。RCSは、入門カテゴリーであるクラス3の選手が、各レースの上位5%(大抵2~3人という狭き門)になんとか入ってクラス2以上に昇格し、インカレをはじめとする選手権大会への出場権を獲得するための貴重な機会です。これが少ないことは学生競技者の裾野の広がりを限定し、特に当校のような大学から自転車競技を始める部員の多いチームでは、彼らのモチベーションに大きく影響するものとなっています。22年はコロナが完全に収束して開催各地域のご理解が再び得られ、大会数が元通りになることを願っています。

さて、当校部員による今季の主要戦績は、下表の通りです。他にも多くの試合に出場しましたが、ここでは全国大会レベルの入賞以上や、当校として一定の成長が見られた試合等を抽出し記載しています。

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2021年シーズン 当校主要戦績

シーズン前半は、川野碧己(経2)の華々しい活躍が目立ちました。明治神宮クリテリウムでのゴールスプリント勝利、また弱虫ペダルサイクリングチームから出場したツアー・オブ・ジャパン第3ステージでの大金星です。これらにより慶應自転車部の認知度も少し上がったのではないかと思っています。
8月には学生選手の年間最高峰であるインカレが2年ぶりに開催(昨年はコロナにより”代替大会”として縮小実施)、ここで当校は個人1種目・団体1種目の入賞を得ることが出来ました。

チームとしての目に見える戦績としては「着実に一歩前進」というところで、まだ特定少数の選手の活躍に依存していますが、しかしその裏で、全体的な底上げが進んでいる手応えもつかめた一年でした。例えば、

  • インカレで7年ぶりに全種目へエントリーが出来たこと(各種目にはそれぞれ一定の持ちタイムが必要で、近年は出場枠を全ては埋められていませんでした)
  • 全日本学生クラスのロードレースでメイン集団に後半まで残れる選手数が増加していること
  • 全日本選手権ロードに4名の選手が出場権を得られたこと(全日本選手権には必ずしも毎年出られているわけではなく、出ても1~2名というところでした)
  • 早慶戦で短距離種目も含め早稲田との差を一歩縮められたこと

等の地道な進歩はあまり表面に見えては来ませんが、来季以降のさらなる戦績向上に確実につながるものだと考えています。

競技面以外での成長

2021年は、戦績以外の面においても、当部の成長を感じられる年でした。
四年生の石井主将・纐纈主務以下、一年生まで含めて自分達で「考え」「議論し」「決めて」「実行する」という行動パターンが正しく出来てきて、僕が細かいところまで口を挟まねばならない局面はほとんどなかったのではないでしょうか。
秋以降も二年生などが活発に意見を出し引っ張っていっている様子が見て取れました。かつ、強い選手がただ自分達のやりたい練習プランとするのではなく、大学から競技を始めたメンバーも含め全体を強化していこうとの意識がしっかり基盤にあることも、当部として望ましい姿だと思っています。

SNSでのPR強化も今年の成長ポイントだったと思います。「広報部」と称する数名の担当者を部内で決め、TwitterInstagram等のSNSをそれぞれが分担し発信しています。まだ「運用」と言うには早いかもしれませんが、これまで体育会他部に比して活性度のやや見劣りしていた各媒体が、少なくとも全体平均並みかそれ以上の内容・更新頻度・フォロワー/ビューワー数になって来ているようです。

現在3名いる女子マネージャーは皆しっかりしていて、男子部員のややルーズなところ(金銭管理、資材調達、試合準備等)をしっかり締めてくれています。
また学連委員になっている栗原(商2)も、コロナで無観客試合が続く中でのYouTubeライブ配信導入や、2年ぶりとなった早慶戦の開催準備などで、縁の下の力持ちぶりを発揮してくれていました。学生レースの進歩・改善の余地はまだまだ沢山あると思いますので、学連ルーツ校のひとつとして更なる活躍を期待します。

2022年の目標と方針

インカレ総合入賞を本気で目指す

先日の納会において、部員諸君が総意として掲げた2022年シーズンの目標は、「インカレ総合入賞」というものでした。僕が大学チームを見て来たこの10年の中で、この目標を立てた年は以前もありましたが、どこか「夢」「憧れ」の域を出ず、「出来たらいいな」ではあっても現実として手が届く、いやこの手でもぎ取るという意識が必ずしも高いとは言えなかったと思います。

しかし、22年は違う。選手達自身が「やれば出来る」と本気で思っており、それに向けて全員がそれぞれ何らか貢献しようと真面目に考えている雰囲気があります。外部から見れば、「21年にたかだか対抗得点5点、12位の学校が何を言っているのか?」「たまたま何人かのタレントがいるかもしれないけど、インカレは総合力だからね」という感想もあるでしょう。ええ、言わせておきましょう。それを特別推薦制度のない我々がひっくり返していくことに、高い価値があるのです。さらに言えば、当部の活動理念は「学生日本一を目指すことを通じ、全社会の先導者を育成・輩出する」ことですから、「入賞」はあくまでその通過点であって、そろそろクリアしなければならない宿題だとさえ言えるでしょう。

もちろん今回も、ただ望んでいるだけ、漠然と練習しているだけで達成されるものでは決してありません。インカレ総合8位へ入るためには、対抗得点合計(トラック+ロード)が概ね25~30点必要です。どの種目で、誰が(現時点で固定はしませんが、複数候補を想定し競争しよう)、何位・何点を取るのかの具体的戦略を練ること。それに向けてあと8ヶ月しかない期間の強化プランやサブターゲットを策定し実行すること。これを新年早々、幹部諸君と一緒にやっていきたいと思います。

コミュニケーションとリーダーシップ

上記の目標達成のためには、まだまだ個々の選手の競技力向上が必要であり、全員が一日たりとも油断や無駄のない、有意義な毎日を積み重ねる必要があります。いつもの繰り返しになりますが、今日の練習の目的を明確にして臨み、練習後にはその振り返りを行い、従って明日はどのような目的でどのような練習をすべきかを考えてから寝る。このサイクルを自身でしっかり回すことは学生アスリートとして本来当然ですが、自分に甘くなってしまうのもまた人間。そのゆるみがちなタガを引き締めることや、毎日の検討サイクルの質を引き上げていくために、チームメンバー同士のコミュニケーション量をもっと増やしていきましょう。
どうしても個人練習の比率が高くなる自転車競技の特性にも鑑みて、①毎日の練習ブログ、②月1~2回の全体/各班部員ミーティング、③週2~3回の集合練習、といった機会でもっともっと部員間の意見交換を活発化させていくべきです。

近年のブログ上で相互に意見を述べ合っていることが見られるのは大変良いと思っています。部員ミーティングにおいては、どうしても発言の多い人が偏ってしまうものですが(これは当部に限らず、会社などでもそうなりがちです)、当部は相当風通しの良い(ある種体育会らしくない)チームですから、強い弱いに関係なく、より多くの意見を出し合い洗練された議論をしてもらえたらと思います。ミーティングの回数を必要であればもう少し増やしても良いでしょう。

また集合練習の際は、ロードもトラックも共通ですが、その日の練習目的、メニュー、留意点などを皆で再確認してから開始すること。そこで強く意識付けされた上で走り始めるかどうかが、練習効果を大きく左右するでしょう。

そして上記のようなコミュニケーションの活性化・円滑化を、主将・副将・トラック/ロード各班長を中心に、適切なリーダーシップを発揮し促進してもらえたらと思っています。全員が一回は発言するようにミーティングをファシリテートすることや、トラック班/ロード班それぞれのミーティングに主将・副将や逆側の班長が参加することなども良いでしょう。

創部120周年

1902年(明治35年)に創部された我が自転車競技部は、2022年で満120周年を迎える、我が国で現存する最古の自転車競技チームです。この記念すべきシーズンのチーム戦力は、僕の知る限りながら、控えめに言って史上最強の布陣が整いつつあると思っていて、今から年間レースカレンダーを作り思いを巡らせていくことに僕自身とてもワクワクしています。
22年は部員諸君が自発的に、JBCF(実業団)へもチーム登録すると提案して来て、不足しているレース経験機会を補えるものと期待していますが、それだけ僕の週末稼働も一層増えそうです。

一方で、競技力以外にも我々が来年直面する課題は少なくありません。例えば、

  • 21年は入院を要するレベルの落車事故が2件あり、来年はこれをゼロとしたい(いずれも機材整備不良や前方不注意といった自責要素があり、再発防止策は講じているものの今一度認識を新たにしたい)
  • 新年度は授業のほぼ9割方がリアルに戻る見込みな中で、練習量を維持・向上させること(”コロナ前に戻る”というだけなのですが、現在の部員の半分は”コロナ下”しか経験していない世代です)
  • 新入部員の獲得も毎年予断を許さず、リアルオリエンテーションの復活やSNS活用でどこまで有望人材を確保出来るか(これまで部員供給源だった塾高サイクリング部の部員数が現状ほぼゼロに近く、今後数年間は供給が見込めない)

といった学生チームならではのミッションを、部員諸君の創意工夫と熱意で乗り越えていく年となるでしょう。
名実ともに「記憶と記録に残る」120周年とすべく、OB/OG会も含めた当部関係者が一丸となって取り組んでいきたいと思います。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

(2021/12/31)