総監督ノート

~学生自転車競技のコーチングメモ~

年間スケジュール ~一年の計は元旦までに

先週、JCF(日本自転車競技連盟)から今年の主要大会日程が公表されました。学連のほうも先月出ていたので、それと合わせて当部の年間レーススケジュールが見えて来ました。

通常は毎年12月末までに、総監督自身が翌年の年間スケジュールを大学版・高校版に分けて作っています。これはもちろん、部員諸君に翌シーズンのターゲットレースとそこへの持っていき方を早めに考えてもらうことが第一目的です。加えて僕自身を含む社会人指導スタッフも、一年間を見通して仕事や家庭との兼ね合いを早めに調整しておくこと(今年は52週のうち35週が自転車部だ、とか、有休を12日くらいは必要だ、とかです)にも役立ちます。

当部の年間スケジュールの例

実際にどのようなものを作っているのか、今回作成した2020年シーズン向けのものをサンプルとして貼っておきましょう。 

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細かくて見にくいかもしれませんが、雰囲気だけ見てください。

特別すごい工夫があるわけではなく、1月頭から12月末までの52週間に、出場対象となりそうなレースを全てプロットしているものです。それを基に、選手それぞれが自分のターゲットとするレースをいくつか定め、それに向けてのピリオダイゼーション(シーズン内での期分け、ピークの持っていき方)を考えてもらえるようになっています。

真ん中やや右側に「ピリオド区分」の欄があり、
1=移行期(自転車以外のクロストレーニング、機材交換・オーバーホール、翌シーズン計画立案等)
2=一般的準備期(軽いギアによるLSD及びスピニング、トラックでの軽い固定ギアによる高速巡航及びスプリント、総合的筋力トレーニング等)
3=専門的準備期(試合用ギアによる高速巡航及びスプリント、山岳での高強度、専門的筋力トレーニング等)
4=試合期(年間数回のターゲットレース、及びその間の高強度・調整的練習)
の別で、トレーニング計画を自分で色々設計してみることが出来るようになっています。

また、量的指標としては週間走行距離を入れる欄があり、何kmと入力すると概ねの走行時間も自動計算(ピリオドに応じた想定平均速度で割り算)するようになっています。ただし量的管理については今後、TSSなど違う指標を併用することも有用でしょう。

表の右側には、学校の各学期の始業式や試験のタイミングなど、主要な学事日程も併せて見られるようにしています。これは合宿時期や練習量を考えるときの利便性向上を図っているものです。学生スポーツはあくまで文武両道であるべきことや、実際に実行可能なプランでなければ絵に描いた餅であることから、現実の学生生活を横目できちんとにらんでおくことは大切です。

表の右端では、大学生には高校の、高校生には大学の、それぞれ主要大会タイミングを分かるようにしてあって、お互いの動きをある程度意識できるようにもしています。それにより、この辺は高校生が大学の練習に参加して来そうだなとか、この辺は合同合宿をしようか、この試合は応援しに行ってあげようか、といった縦の良いつながりが生まれることを期待しています。

年間スケジュール作成時のTips

このスケジュール表を作成・活用する際に、いくつかコツというか、意識している点があります。以下に備忘録として記載しておきましょう。

①必ず52週単位に整理し直す

よくあるのは、JCFや学連から公表された日程表をそのまま活用しているケースです。手っ取り早いのでしょうが、それらの日程表は、レースのない週が割愛されているので、「ターゲットレースまであと何週あるのか」といった時間軸が正しく見えません。選手が練習計画を立てる際に、それは致命的です。
自分が出る予定の、あるいは出ることを目指しているレースは、少なくとも上記2連盟に跨っていることが多いはずですから、それらをがっちゃんこして一覧でき、かつ週単位でピリオドを設定できる、上述のような52週間カレンダーを持つことが必須です。その手間を惜しまないようにしましょう。

②あえて全日本・世界のレースもプロットしておく

赤文字で記載しているのがそのレベルの大会ですが、わざとこれらのレースも記載しておくことで、選手達の目線を上げる効果を忍ばせています。当部の現在の実力的には、全日本選手権や国体に毎年1~2名が出場、ごく稀に(最近ですが)世界選手権U23アジア選手権女子に選んでいただいたことがあるくらいで、大部分の部員にとっては今のところ「雲の上」なレースです。それでも、「我々はチャンピオンスポーツに挑んでいる」「いつかはここを目指す」「学連レースが入っていない週に、競技界ではビッグイベントが行われている」といったメッセージは、伝わる選手には伝わるのではないかと考えています。

③巷で言われる「〇週間サイクル」に固執しない

クリス・カーマイケルの「ミラクルトレーニング~7週間完璧プログラム」は良い本だったと思いますが(ランス・アームストロングのその後は別として…)、そういった感じで、ネット上などには「何週間サイクル」といったマニュアル的な情報が色々流れています。ただ実際のレーススケジュールは、我々の決まった週間サイクルに合わせて設定されているはずはありませんから、あまりそれらの情報にとらわれ過ぎる必要はありません。それらの基本となる考え方・コンセプトは理解した上で、自身のレースカレンダーに合わせて柔軟に計画していく応用力が大切です。

「一年の計」を考えることで、より充実した学生生活を

ピリオダイゼーションは、スポーツ選手の基本であり重要なことなので、色々な書籍やネットに登場していますから、ここで細かい解説は不要でしょう。ただし重要であるがゆえ、正しい知識を持っておくことが指導スタッフにとって不可欠ということでもあります。

おそらく、ピリオダイゼーションの入門書でありバイブルは今でも、米ヨーク大学のTudor O. Bompa教授による「競技力向上のトレーニング戦略~ピリオダイゼーションの理論と実際」(邦題、2006、大修館書店)だと思います。(別に宣伝やアフィリエイトなどではないので、あえてAmazonなどのリンクは張っておきません)
300ページ超、4,400円という少々ハードルの高い文献ではあるのですが、大学生アスリート以上の指導をするのであれば避けて通れない基本書として、推奨しておきます。

冒頭でも触れた通り、年間計画は前年の末には作成して、部員諸君と共有することが有用です(なおこの点で、今年の連盟スケジュールがなかなか出て来なかったのは少々不便でした)。
当部では毎年12月上~中旬に、シーズン総括のミーティングを行い、各自の振り返りとともに翌シーズンの目標案もレポートとして提出してもらっています。その目標案を年末年始の個人面談などで適宜ブラッシュアップした上で、それをどう実現するかを考える。その時にこのスケジュール表が非常に大切です。

この活動をおろそかにすると、なんとなく春合宿に入り、なんとなくシーズンに突入し、1レース1レースに流されていく。そんな密度の薄い選手生活、ひいては学生生活を送って来た部員は、3年生後半~4年生になって就職活動を迎えた時に、「あれ、俺って何にもやって来なかったな、何にも話せないな」とハタと気付く。でもその時にはもう手遅れなのです。

部員一人ひとりの大切な高校生活・大学生活を密度の濃いものとし、その密度の差が競合他校に追い付き追い越す源泉となるように。まずはこの毎年の「一年の計」を大切にしてもらえたらと思います。そしてその先に、これを4年サイクル(=オリンピック周期)で考えられるような選手が当校からいつか出て来ることを、期待しています。

(2020/1/21)